
窓から差す午後の光が、木目の上をゆっくりと移ろう。彼が手に取ったのは、父が使っていた一冊のノートだった。「会社を継ぐ、というより。この人たちの仕事を、未来に残したかったんです」。物語は、その静かな一言から始まった。
継いだのは、会社よりも、
人の想いだった。
家業を継ごうと決めた、きっかけを教えてください。
若い頃は、外の世界で自分の力を試したいと思っていました。家業に戻るつもりは、なかったんです。それが、久しぶりに工房を訪ねたある日、変わりました。
子どもの頃から知っている職人が、いつもの場所で、いつものように木を削っていた。その背中を見て、この仕事がなくなってしまうのは嫌だ、と初めて思ったんです。
継ぐべきものは、建物や機械だけではない。人の手に染み込んだ知恵や、言葉にされずに受け渡されてきた誇りもある。それに気づいたことが、始まりでした。
「変えないために、変える。
その繰り返しが、
伝統になるのだと思います。」
父のノートにあった、
たった一行。
受け継いだもので、いまも大切にしているものは?
父のノートです。注文の覚え書きや、材料の寸法が並んでいる。立派な経営論が書いてあるわけではありません。でも、あるページの隅に「使う人の、その先を考える」とあったんです。
目の前のお客様が喜ぶだけではなく、その子どもが使う時代まで考える。父がいつも手入れのしやすさにこだわっていた理由が、その一行で分かった気がしました。

新しい製品を考えるとき、私はその言葉に戻ります。流行に応えることも大切ですが、長く使うほどに愛着が増すものを作りたい。それが、私たちの変えたくない中心です。
百年後の誰かの、
日々のそばに。
これから、どんな未来を残していきたいですか。
百年後にも、私たちの作ったものが誰かの暮らしの中にあったら嬉しいですね。作り手の名前は、忘れられていてもいい。触れるとほっとする、直してまた使いたくなる。そんな存在であってほしい。
そして、ここで働く若い人たちが、自分の仕事を誇らしく語れる会社を残したい。技術も物語も、次の人が受け取って初めて、未来につながりますから。
木工企業の事業承継をテーマに構成した架空のインタビューです。実際の取材記事ではありません。実制作では、取材先の写真・確認済みの発言・企業情報に置き換えます。
経営者の言葉に、
新しい視点と出会う。
決断の背景や、大切にしてきた価値観。
肩書きの向こうにある、その人の物語を届けます。
